ガラス雑学 5−2 ジャコバイトグラス
名誉革命から2年後に、ルイ14世から援助を受けたジェームズ2世は、アイルランドで蜂起しますが、
ウィリアム3世に敗れ、その後彼らの希望は息子のジェームズ・エドワード・スチュワートに託されます。
 
1714年にアン女王が亡くなり、ステュアート朝が断絶し、遠縁にあたるドイツのハノーヴァー選帝侯
が迎えられてジョージ1世として即位したのですが、この時もジャコバイト達は、ジェームズ2世の息子
ジェームズ・エドワード・スチュワートを担いで蜂起したものの、やはり敗れてしまいます。
 
それでもジャコバイト達は諦めず、ジェームズ・エドワード・スチュワートの息子チャールズに望みを託し
ます。
彼もまた、フランスと援軍の約束を取りつけ、王位奪回のため1745年にスコットランドの西岸に家来7
人と共に上陸します。
そしてスコットランド・ハイランド地方のジャコバイトを味方に付け、挙兵しました。
 
チャールズ軍は、イングランド軍を押してエジンバラを占拠、さらにダービーまで進撃します。
王位奪回は成功しそうに見えましたが、イングランド北部のジャコバイトはチャールズ軍に加わらず、
またフランスからの援軍もなかったため、このあと次第に後退していきます。
 
そして、最後となったカローデンムアの戦いで敗北を喫し、スチュワート家の王位奪回の計画は終わ
りを告げることとなりました。
 
【フランスに亡命中の王に乾杯】
ジャコバイト達はひそかに寄り集まり、お互いを励まし、誓いを新たにしたりしていました。
その乾杯する時に使用したグラスが、「ジャコバイトグラス」だったわけです。
 
当時のダイニングテーブル上には、陶製、銀製のワイングラスクーラー(17世紀後半にワインではな
く、ワイングラスを冷やす習慣が広まったため使用した道具)が置かれていて、手を伸ばし、そのクー
ラーを越えて「ザ・キング」という掛け声と共に乾杯したといわれています。
 
クーラーの中の水がドーバー海峡に例えられ、フランスにいる正当な王に対し忠誠を誓うという儀式
があったようです。
このようにジャコバイトグラスは、思いや志を同じくする人達を結びつける、強力な政治的宣伝媒体と
いう役割を果たしたわけです。
  
直線上に配置
直線上に配置
【ジャコバイトグラスの特徴】
ジャコバイトグラスには主に、ワイングラス、ゴブレット、タンブラー、
デキャンタ等に見られ、これらの素材にバラの花やつぼみ、オーク
の葉、あざみの花のエングレーヴィングが装飾技法として取り入れ
られています。
 
これら装飾模様及び文字には、当然ながら意味(メッセージ)があ
ります。
 
(1)バラの花 
十分に開いたバラの花は、イングランド王位の象徴。
現在でも、イングランドは別名「LAND OF THE ROSE」と呼ば
れている。
 
(2)バラのつぼみ
つぼみは次期王位の要求者を表しているらしい。王位の要求者とは
この場合、ジェームズ・エドワード・スチュワートとその息子のチャー
ルズ・エドワード・スチュワートを指す。
 
(3)オークの葉
スチュワート家のシンボル。王政復古の意味もあるらしい。王政復古の前に、チャールズ2世が イ
ングランドに上陸し、クロムウェル軍と戦って破れた時、オークの木の洞穴に隠れて難を逃れたとい
ういい伝えがある。
 
(4)あざみの花
スコットランド王位の象徴。
現在でも、スコットランドは別名「LAND OF THE THISTLE」と呼ばれている。
スチュアート家は元々スコットランドの家系で、当時スコットランドとイングランドは同じ国王によって
統治されるという関係だったが、過去の対立によるしこりは依然として残っていた。
 
(5)星
ジャコバイトの奮起、努力を表しているらしい。
 
(6)Fiat・文字
ラテン語で、英訳すると「let it be」、この場合の日本語でザックリ訳すと「願い事が叶いますように」
らしい。
 
(7)Redeat・文字
ラテン語で、英訳すると「May he return」、日本語でザックリ訳すと「王位に復帰せんことを」らしい。
 
(8)Audentior ibo・文字
どうやらこれはミスらしく、本当は「Audentior Bibo」で日本語でザックリ訳すと、「我は勇敢に飲む」
という事のようだが、「我は勇敢に戦う」という様に解釈されている。
 

エアツイストステムのジャコバイト
グラス。

前 へ 雑学INDEX home 次 へ