ガラス雑学 7−1 イギリス・グラス (鉛クリスタル)
イギリスのガラスの始まりは、紀元前後の頃、ローマ時代にさかのぼります。
ローマ帝国没落後、イギリス独自のアングロサクソングラスと呼ばれるガラスが作られていました。
 
その後一時中断の時期がありましたが、再びガラス工芸が興ってくるのは、13世紀に入ってからです。
フランス・ノルマンディ地方から、ガラス職人達が移住し、教会の窓ガラス等が作られていたようです。
しかし当時はまだ、ガラス工業と呼べるほど育つ事はありませんでした。
 
イギリスにヴェネツィア・ガラスの影響が及んで、工業として発達し始めるのは、フランス人ジャン・カレ
と、彼の工場の跡を継いだイタリア人ジャコモ・ヴェルツェリーニによって、ロンドンでファソン・ド・ヴェニ
スの製品が作られるようになった、16世紀半ば以降の事です。
 
1567年にカレは、アントワープのガラス職人達を引き連れ(この中に、ヴェルツェリーニもいたらしい)
ロンドンに到着。
その後、すぐに請願書を出して、開窯する免許を得てファソン・ド・ヴェニスのガラス製品を作り、人気を
博したようです。
 
17世紀に入ると、イギリスのガラス界はロバート・マンセル卿と、バッキンガム公によって支配されて
行きます。
 
彼等は、石炭の製造特権を持っていたため、木材が禁止され石炭によるガラス溶解が始まり、ニュー
カッスルやブリストルなどの炭田周辺ガラス工場建設が広がって行きますが、一方で国内生産される
ファソン・ド・ヴェニスの生産量を制限していたため、ヴェネツィア様式の流行は一向に衰えず、高級ガ
ラス器はヴェネツィアなどから輸入する状況が続きました。
 
 
【クリスタル・ガラスの誕生】
 
こうした状況の中、イギリスのガラス職人達は、長い間ヴェネツィアン・ガラスと肩を並べる事が出来る
ことを望んでいましたが、こうした彼らの望みが達成されるには、1676年まで待たなければなりません
でした。
 
町のギルドの1つである「ガラス販売組合」は、1674年にジョージ・レイヴェンスクロフトを雇い入れて
全てを託します。
 
彼は1671年に、クリスタルガラスを製造する特許を得ており、その後1674年にイタリア人ガラス職人、
パプティスタ・ダ・コスタを助手につけ、新しいクリスタルガラスの開発に取り掛かります。
 
当初、ガラス表面が曇ったり、細かいヒビ割れが生じましたが、ヴェネツィアで使用していた珪砂を珪石
(フリント)に、そして酸化鉛の量を12%から27%に引き上げた事により、問題は解決しました。
鉛クリスタルの誕生です。
 
この新しいクリスタルガラスは、最初から国内で注目されていました。
当初から凌駕しようしていた、ヴェネツィアの「クリスタッロ」ほど薄吹きには適していませんでしたが、
重量感があり、かつ共鳴し、また輝度や光の屈折率も高く、柔らかなガラスであったため、装飾法のひ
とつであるエング・レーヴィングやカットに適したガラスで、この事に気づくのにそれ程時間は掛かりま
せんでした。
 
こうしてクリスタルグラスは、次第にヴェネツィアガラスにとって代わるようになり、他のヨーロッパ諸国
のお手本となったのです。

【イギリスのガラスの始まり】

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